「兄さんを!!兄さんを返してください!!」

雲ひとつない昼下がり。場所はラント領主アスベル=ラントがすんでいる屋敷のとある一室で。そこでは全体的に青色をイメージさせる青年が、喧しく何かをわめきたてていた。

(そんなに大声立てなくても聞こえてるっつーのに)

青い青年につかみよられているのは上から下まで全身が黒い男、ユーリ・ローウェルであった。ユーリは隠すこともせずに青い男に向かって盛大にため息を吐き出した。いつまでも兄にしか興味がない彼、ヒューバートはそろそろ兄離れをはじめてもいいんではないかと本気で思う。……そんな日は恐らく……いや一生来ないとはわかってはいるが。


「返せって……あいつはお前のものじゃねぇだろうに……」
「いいえ!!兄さんは僕のものでした!リチャード陛下には少しの間貸してあげましたが……貴方に貸した覚えはありません……っていうか、貸す気もありません!!」
「……このブラコンが……」


ちゃっかり兄を自分のもの扱いする弟に、誰がこんな強烈なブラコンにしたんだ……と少し考えて……やめた。原因は分かりきっていたし、何よりその主な原因を作った人物は……ヒューバートと同様、自分にとっても愛しい人物であったからだ。愛しいの種類は……違っていたら嬉しい。


「だいたい……貴方はいつまでラントにいる気ですか?自分の家をほったらかしてラントに入り浸って……挙げ句の果てには兄さんの部屋に泊まり込むなんてっ……何を考えているのか知りませんが、このまま兄さんと添い遂げるなんてぬかしたら容赦なく撃ちますよ」
「……ごっちゃごっちゃうるせーなぁ……べつにいいだろ俺がどこに住もうがどこに居ようが……お前はあれか?小姑かなんかか?それに何しろお前の大好きなアスベルお兄ちゃんが了承してることだぜ?お前にとやかく言われる覚えはないと思うんだけど」
「……それが余計に腹立たしいんです!!百歩…いや一億と二千歩ほど譲って騎士としてちゃんと働いているフレンさんならまだ良しとしましょう……まあフレンさんはそんなことしないとは思いますが……それなのに ……それなのにどうして兄さんはこんな人の家でごろごろするしか能がない駄目人間……もとい自宅警備員をラントの屋敷に泊まらせているのか………あぁ……あり得ない……あり得なすぎます……」
「……おい、おい。何か色々聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど」
「……とにかくっ!!早く出ていってっ「ヒューバートーー!!」



……きました。
ブラコン……もちい青色眼鏡を致命的ブラコンにした諸悪の根源が。


「……に、兄さん!?」
「ヒューバート!……とユーリ?二人が一緒にいるなんて珍しいな!ヒューバート、ユーリに稽古でもつけてもらってたのか?」
「……っだっ、誰がこんなニートなんかにっ……それにしても兄さんこそどうしてここに?リチャード殿下の護衛についたと聞いていましたが……」
「……ついに自宅警備員からニートになったよ……」
「……あ!!忘れるところだった!そう!!俺はユーリを迎えにきたんだ!!」
「……俺を?」「ニートを!?」


アスベルの言葉に俺と青色眼鏡は少なからず驚いた。殿下の護衛という依頼と、俺との関連性がまったくもって思いつかなかったからだ。もともと貴族嫌いの俺に何をやらせようってんだ?この領主様は。


「あのな…実はリチャードの護衛の数が足りないんだ。剣技に長けているものが良いらしいんだが今城内にはそこまで剣を上手に使いこなせるものがいないらしいんだ。それで、誰かいないかって聞かれたんだけど……俺はユーリしか思いつかなかった。周りは貴族だらけで嫌かもしれないけど……一緒に……ついてきてはくれないか……?」
「……ふーん」


……なーんだ。
俺と一緒にいたいから、とか、そういう可愛らしい理由じゃないのか。少し残念だったけど、青色眼鏡の顔面蒼白顔が見れただけでまぁ、良しとしよう。



「……しゃぁーねぇなぁ……領主様の頼みだ。少しの間、つき合ってやるよ。」
「……ほんとうかっ!!ありがとう!!」
「……そのかわり報酬はきーっちりもらうからな」
「……ん?ユーリは何か欲しいものでもあるのか?」
「……んー?先払いにしとくか?」
「え!?俺今お金なんてもってな……んむっ!?」



アスベルの言葉が最後まで言い終わる前にアスベルの肩に手を置き、自分の方に引き寄せて……唇に一つキスを落とす。軽い、触れるだけのものだったけど、アスベルと青色眼鏡の時を止めるのには充分だったらしい。



「……これがお前から俺への報酬ってことで。」



アスベルは咄嗟のことで何が起こったのかを理解出来ずに首をかしげ、青色眼鏡は奇声をあげて銃に手をかけた。


「……行くぞ!」


まだ理解が出来ていないアスベルの右手をおもいっきり引っ張って屋敷の窓から外へと飛びだす。後ろから銃声が聞こえた気がするが、まぁ今は放っておこう。



……それに青色眼鏡が言っていたことも、あながち間違ってはいないのだ。



(……こいつと添い遂げるまで、こいつの傍を離れる気はねぇよ)


だからどんなに嫌いな貴族がたくさんいるところにだってついていくし、どんな頼み事だって聞いてやる。お前と離れている方が苦痛だ、なんて全く自分の柄ではないけれど。それでも、



「……ユーリとならどこへだって行けそうな気がするな」



こいつと少しでも一緒にいたいって、本気でそう思うんだ。



そんな日常






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